行ってみたい場所、また行きたい場所

永く愛されるお店とは

埼玉で数店舗の美容室を経営されているオーナーのお話。
永いお付き合いをさせて頂いて、経営されている美容室の全店舗、カフェ、ご自宅まで全ての設計を任せて頂き、勝手ながら、オーナーの人生そのものの一端を担った気持ちでいます。

ご一緒させて頂いた全ての設計を通じて、オーナーの趣味嗜好に共感し、とても楽しく仕事をさせて頂きました。印象的なのは、使用する素材は新品ではなく古いモノや味のあるモノを好まれるということ。「私はこれから老いてく一方ですし古いモノが似合います」「私ほどいい加減な人間は居ませんから新品は気恥ずかしい」などとおっしゃり、場を和ませながらもしっかりとご自身の好きなモノを主張されている話術に感動していました。その時は、オーナーの意向に合うものをご提案するのに必死で、その裏に隠されたメッセージを読み取ることができませんでした。

「なぜ、古いモノや味のあるモノを好まれるのか?」
このことについて深く考えてみたとき、それはオーナーの美容に対する姿勢そのものであり、お店の内装はお客様へのメッセージなのではないか?という考えに至りました。

文字通り、美容室とは男女問わず「美容」を求めてくるお客様のための空間です。お店に来た時より帰る時のほうが美しくなっていることを求められます。広い意味で考えれば、美容室には技術的なサービスはもちろんのこと、お客様が美容に対しての自信を持てるようになる場所であることが求められる気がします。
その場所の提供こそ、オーナーの真意だったように思います。

誤解を恐れずに言うならば、人は均等に時を重ね、歳を重ねて行き、「若さ」という魅力だけは日に日に失ってゆくことになります。短いスパンで考えれば、来店時より退店時のほうが数時間分だけ歳を重ねていて、前回の来店時よりは数ヶ月分の歳を重ねています。では、若さを失うことは美しさを失うことなのでしょうか?

その答えこそ、一連の店舗に込められたメッセージのような気がしています。

木目の深みが増したチーク材のテーブル、腐食によって味わいを増した鉄素材の数々、永い年月によって落ち着きのある色に変わった木製のドア、懐かしさと安らぎを感じさせるガラスの素材感、使い込むほどに重厚感を増すモルタルの質感など、「若さ」や「新しさ」では生み出せない魅力です。

それらの魅力が散りばめられた空間こそ、お客様に自信を持ってもらうために最適な環境なのだと思いました。そのことが、また行きたくなる場所として人のココロに残るのだと気づいたとき、ただただ表面的に古いモノを採用するという観点でしか考えていなかったことに恥ずかしさを感じました。

以上は、私の勝手な推測ですし、直接聞いても「そこまで深く考えていませんよ」と誤魔化されると思いますが、リピートの絶えない美容室には、技術とは別の魅力も併せ持っていると確信しています。

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