設計者が自邸を建てるということ 第3話

確認申請も下りて、いざ着工という段階になり、ちょっとしたトラブルがありました。
この住宅は木造二階建てですが、構造計算までしっかりと行なった住宅です。理由は建物の形状が複雑であることと、地質に不安があったためです。地質の問題をクリアするために、木造住宅としては非常にゴツい基礎となっています。そのために、一般的な木造基礎の施工業者では施工ができず、RC造や鉄骨造の基礎業者に依頼をする必要が出てきました。しかし、折しもタイミングが悪く、建築の職人不足が騒がれる真っただ中の状況で、ちょっとしたタイムロスが生じてしまいました。その後も、突然の雹に見舞われるなどのちょっとしたトラブルもありましたが、何とか無事に完成を迎えます。

完成した住宅は非常にシンプルで明解、希望条件を叶えるための最短距離を選んだプランになっていると思います。
特に2階のフロアを目一杯に使ったLDKは、L字型のバルコニーに面して「開く」と「閉じる」を使い分けることによって、様々な構成になり、都度異なる表情を見せる空間となります。自邸を実験台として取り入れたサッシの納まりから、屋外ブラインドという選択まで、土地を選んだ時に浮かべたイメージを一つ一つカタチに落し込む作業は試行錯誤の繰り返しだったと想像します。
そのLDKに大胆に置かれたステンレスキッチンも特徴的です。キッチンの作業台がそのままダイニングテーブルも兼用することで、省スペースでありながら個性的な空間を生み出しています。
また、洗面浴室は湿式の在来工法を採用し、シャワーブースと浴槽スペースをセパレートして、自分たちの生活様式に最も適したレイアウトとしています。ユニットバスをポンと置いただけの浴室とは一線を画す雰囲気をもっています。

彼の自宅を見て回りながら、自邸建築の感想を聞いてみたところ、工事期間中の「一日」という時間をとても大切に感じたとのこと。工期が延びることの影響を自ら体感し、自分の仕事に与えられた時間というものの大切さを改めて感じたようです。工事に影響が無いように毎日の天気も気になり、天候を読みながら工程の管理をすることもいつの間にか会得したようです。

仕事を通じて経験するのとは異なる視点から住宅建築に携わることで、新しい気づきや発見を得て、今まで以上に提案に説得力が付加されることを期待しています。また、早速ながら、家の中で改善したいところを見つけているようですので、今後も改善と成長を続ける家であり、設計者であって欲しいと思います。

「家は数軒建てて初めて満足する」などという、どこの誰が言ったか分からない格言がありますが、数軒建てるなんて全く持って非現実的です。きっと、腕に自信の無い建築屋が自己弁護のために言ったのでしょう。一軒目から満足する家をご提供するためには、私たちのような専門家が、良くも悪くも様々な経験の蓄積をフィードバックすることにあると思っています。

そして、今回、私たちはまた新しい経験を蓄積できたと思っています。

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